【講座】石井光太さん 生きること
安らげる場所があるかないか

レポート
2016年1月12日(火) 22:20

浦安市美浜公民館で開催されたノンフィクションライター石井光太さんの講演会。男性、女性半々くらい。小学生・中学生の姿も見えます。2日に渡る講演会のもようをリポートします。

2015.11.28 『浮浪児1945-戦争が生んた子どもたち』から見える“生きること”

1回目は第2次世界大戦敗戦後の「戦争孤児」について話しました。

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まずは先の大戦で、孤児になった子どもの話。

孤児を生み出した戦争

「東京大空襲のあった3月は寒く、家を失った大人も子どもも自然と上野の地下道に集まったそうです。当時、上野はターミナル駅。地方から親戚を探しにきた大人たちから食べ物をもらえることもありました。

そんな風に助け合う雰囲気も終戦を迎え無くなります。兵士が帰還、人口が増える一方、大陸からの輸入が途絶え、極端な食糧難に陥ります。地下道に残った子ども達も毎日を生き抜くのに必死になりました。」

孤児から浮浪児へ

石井さんが用意してくれた当時のNHKニュース動画をいくつか見ました。

「上野地下道の浮浪者強制収容」

「製薬会社の前に血を売るために並ぶ人の列」

「治安維持のため指紋とり まずは浮浪者から」

陰鬱なBGMが流れる中、「強制収容」「治安維持」「衛生管理」という言葉の下、地下道の浮浪者たちが守られることなく、厄介者扱いされる映像が流れます。

「親を亡くした孤児は「浮浪児」となっていきます。生み出すのは戦争。浮浪児にとっての戦争は戦後に始まるのです。」

生き抜いた先の未来を分けるもの

「闇市の手伝いをする浮浪児、靴磨きなど自分で商売をはじめる浮浪児、たくましく生き抜いていく浮浪児の社会も戦後しばらくすると変化が起きました。

戦争は家庭を破壊します。戦地で人を殺しトラウマを抱えた父親が帰ってくる、けれども飢えている、ストレスは暴力となり、弱い立場の子どもに向かう。そんな家庭から逃げ出してくる地方の子どもが自力で生きていける上野に集まるようになります。

家庭内暴力というトラウマを背負った浮浪児と空襲で突然暖かい家庭を無くした浮浪児は根本的に違います。テキヤとつながりやくざの部下、犯罪に手を染めていく者、一方、農家などの手伝いをするうちに、家族として住むようになった者、「戦争孤児」「元浮浪児」という差別と闘いながら必死に勉強して社長や大学の教授になった者。

生き抜いた先の未来を分けたのは「あたたかい家庭」の体験があるかないか、ないか。その差は圧倒的ではないでしょうか。」

と締めくくりました。

 

参考キーワード

本『浮浪児1945-戦争が生んた子どもたち』


 

「愛児の家」石綿裕さん

2015.12.05 現在の社会~貧困や格差~の中で“生きること”

2回目はスラムの話や多様性にまつわるお話しでした。

価値観は生きる場所で作られる

まずはテロの話などから、通常の価値観を持てない状況を「貧困」を軸としてお話ししました。

「人はある程度共通の価値観を持つことを許されていますよね。たとえば、「人の命が一番大切」という価値観。その価値観を突き抜けられればよいのですが、貧困の中で生きるとどうなるでしょうか。

貧困の世界的な定義は1日で使えるお金が1.25ドル。餓死はしないけれど、余剰が全くないレベルです。その日食べることが精いっぱいで、病気やケガをしたり、災害や紛争が起きたらとたんに食べていくことができなくなってしまいます。災害や紛争のあと、世界中で難民が生まれスラムが形成されています。

また、紛争地では80年代位から子ども兵が増えました。ゲリラに村を襲撃され、無理やり兵士にさせられた子どもは「宗教弾圧や民族抑圧からの解放」という大義の下、人を殺し、略奪したりすることで褒められ認められ、自分の存在価値を高めていきます。

スラムやゲリラ、立つ位置が違えば、当然、何が正しいかは違い、価値観はその中で育っていくのです。」

予想外のアイデンティティが育つ場所

「『レンタルチャイルド』 に書きましたが、インドではマフィアが子どもを障がい者にして物乞いをさせる。どうしてそんな事を?とマフィアに取材をする私を子どもが責める。そこでは、子どもにとってマフィアは必要な存在だからです。彼らは自分を人として認めてくれる上に、時には冗談を言い合い、ご飯をたべさせてくれる。

そこでもまた、予想外のアイデンティティが育つのです。」

貧困自体が問題ではなく、貧困という状況が生み出す特殊なアイデンティティが問題なのかもしれません。

価値観をどうつらぬくのか

では、日本の「貧困」はどうなのか。小学生の自殺、家庭内暴力など、取材する中から見えてきたことがあると話します。

「日本の貧困は6人にひとり。世界と同じレベルです。スラムなどは絶対貧困。 国が助けてくれない代わりに貧困の中で助け合うコミュニティができあがります。

一方、日本の貧困は相対貧困、国の制度はありますがコミュニティに属せず孤立するのが特徴です。孤立の中で育つアイデンティティもまた特殊です。一番の逃げ場である家族、家庭が機能していない状況に陥ります。

貧困が原因で八方塞になるのが問題なのです。

また、今はいろんな価値観を持てる時代。反対にあり過ぎてまとめられなくなっている状況です。いいか悪いかではない認め合う世界が求められていますが、限界が出てくるでしょう。

これからは、認めたら何かが派生するかを考え、それも踏まえて認める事が必要となってきます。」

「どうするか」を考えることが大事だと話す石井さん。わたしたちはもっと意見をぶつけ合うことが必要なのでしょう。

往復ブログをご紹介

講演を聞きに来た中学生のブログに返信した石井さんのブログ

http://kotaism.livedoor.biz/

 


 

 

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